米国株式市場におけるゲームストップ(Gamestop)社の株価急騰が話題になっています。
ゲームストップ社は米国に本社をおく世界最大の家庭用ゲーム小売店。オンラインゲームへのシフトやコロナによる来店者減で業績が低迷しテコ入れ中。そのため業績面では将来有望とはいい難い会社です。
そんな会社が値上がりした原因は、個人投資家の一斉の買い注文。これが急激な株価上昇となったようです。
ネットコミュニティVSヘッジファンド
個人投資家たちの活動拠点は、米国版2ちゃんねるとも呼ばれるRedditという投稿型のソーシャルサイト。日本ではなじみがないですね。
www.reddit.com
Redditのコミュニティの一つである「WallStreetBets」でユーザー同士がやりとりし、ヘッジファンドの空売りによっめ株価が低迷していたゲームストップ社の株式やオプションをみんなで購入したようです。
買い注文の個人投資家と、空売りをしているヘッジファンドとの対決。株が上がってファンドがあきらめれば個人投資家の勝ち、下がって個人投資家が株を手放せばヘッジファンドの勝ちというわけです。
空売りは株式をレンタルして10ドルで売って、株価が下がった市場で9ドルで買い戻して返却すば1ドル分が利益になるというもの。株価が下がるほど利益を獲得できます。
空売りファンドは、圧倒的な資金力に裏付けされた大量の売り注文によって株価を下落させ、狼狽売りの投資家から買い戻すのが勝ちパターン。個人投資家を食い物にする巨大なヘッジファンドに一泡吹かしたいという思いもあってネットでの賛同者が増えたようです。
買い注文によって株価が上がれば空売り側は損失です。例えば10$で売ってその後11ドルになれば1ドルの損、100ドルになったら90ドルの損。上昇する株価に天井はありませんから、空売りの損失は青天井。相場の格言に「買いは家まで売りは命まで」とあるゆえんがここにあります。
結局、ゲームストップ社の株価は急激に上昇。今回GameStop株を空売りしていたヘッジファンドのメルビンは白旗を上げ、際限なき損失を避けるために売った株を買い戻してポジションをクローズし個人投資家の勝利に終わりました。
共謀して株を購入し値段を吊り上げるのは適法とはいえない行為ですが、大口投資家は株価を吊り上げたり下落させたりで儲けているのに、個人投資家の協力が制限されるのは釈然としないところもあります。
手数料無料の株式投資アプリロビンフッド
今回のもうひとつの立役者が「ロビンフッド」と呼ばれる株式アプリの存在です。
1,300万人以上のユーザーが利用している同アプリは、手数料無料で売買単位に制限がなく1ドルから手軽に株式が購入できるので、若者を中心に支持されています。
残念ながらこんな手数料無料で株が買えるアプリは日本にはありません。
ただ、無料なのにはカラクリがあります。運営ロビンフッド社は顧客の注文情報をヘッジファンドに流すことで収益を得ています。
例えば、1,000ドルで売られている株に目をつけてユーザーが注文を出すと、注文とともに情報がヘッジファンドに流れます。
ヘッジファンドは1,000ドルの株式を超高速取引で先回りして買い1,005ドルで売り注文。ユーザーは値上がり後の1,005ドルの価格で約定となります。
通常の注文手続き中に取引が超高速で行われ、市場を介しているので合法です。ただ、ユーザーは結果してサヤを抜かれ高い価格で購入することになるわけです。
庶民の味方として無料取引を提供する義賊ロビンフッドが、領主に情報を流しリベートで食っているとは、なんとも皮肉な話ですね。
ファンドの味方もしたかったのか、ロビンフッド社は今回の株価の急騰の最中になぜかGamestop社の取引を一時中止。個人投資家の取引を制限しているとの批判を浴び、あわててら取り下げるという自体にもなりました。
デジタル化によるパラダイム変化
投資の世界では、資金力と情報をもったものが優位というのが常識です。個人投資家は金融の巨人に真っ向から対峙しても無残にやられ搾取されるだけです。
2011年には、ウォール街との経済格差に不満をもつ若者が中心となり、「ウォール街占拠運動」のデモも起きましたが社会構造は結局変わらず。
今回の取引も若い個人投資家が中心となって起きたものですが、2011年と違うのはネットの進歩という点。
機関投資家との情報格差も縮まり、SNSが発達して個人投資家のネットワークがより強くなったことが、巨人を倒す武器となったのではないでしょうか。
今回のできごとは、IT技術によって強化された個人の結束で巨人を倒すことできた象徴的な事件。これもひとつのデジタル化による社会のパラダイム変化なんだろうなと思いました。