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新型コロナワクチンの職域接種のウラ話。

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新型コロナウイルのワクチン接種がようやく進みつつありますね。
ワクチン接種による免疫の獲得は、感染拡大防止の観点で個人だけでなく社会のためにもなります。しかしながら、日本ではワクチンの副作用を大きく報じる動きなどもあって、声高にワクチン急げと主張していた人もいざ実際に自分の接種となると躊躇する場合も多いようです。

ここにきて効果をあげてきているのが職場での職域接種。職場においては、感染者、濃厚接触者が出ると機能がストップするため感染リスクを肌身で感じる危機。そのため職場で「自分だけが接種しない」の自己主張はしにくいわけです。

ただ、職域接種を実現するには規模、会場、スタッフなどのハードルがあります。先日たまたま職域接種を開始した企業の担当者から話をききましたが、職域接種を実現するために彼はほとんど不眠不休で働いていたそうです。

きっかけは政治家の要請から

社長「担当者くん、うちでも職域接種をやるぞ」

担当者「報道もされていたので一度検討したのですが、あれは傘下に病院や医師などの設備が充実している企業の話。うちには医師もいませんし、診療所もコスト削減で廃止していてとても無理という結論になりました。」

社長「実は知事から6月25日までに職域接種をしてほしいとの直々に依頼があったのだ。なんとかやってくれ」

担当者「6月25日といえばあと10日ほどですよ。知事から直々にお声がかかるということは、何か画期的な支援があるのでしょうか。」

社長「ワクチン確保は政府がやってくれるが、それ以外は企業に任されるのが職域接種だそうだ。知事は当社に期待をしているとのこと。私も君に期待をしているよ」

担当者「そんな・・・」

期待だけで何をすればよいのでしょう。ここから彼の地獄がはじまります。

 

接種会場としての診療所の設置

接種の第一のハードルは、接種会場。大人数が入れる会場を確保して企業の「診療所」として登録しなければなりません。

ホールなどの施設を保有している企業はいいですが、大勢が入れる広い設備をもっている企業はそうありません。

さらには診療所の登録。自治体に申請して2週間ほどかかるそうで、知事の要請とやらはこの時点で矛盾していますね。

提携医療機関の確保

接種後の副作用の発生など、容体が悪化した場合の緊急搬送先について、あらかじめ確保が必要となります。病床があっても受け入れてれる大規模病院が必要です。

企業には健康管理を行う「産業医」がいるので、彼はまずそこにアプローチしましたが、お医者さんは基本個人事業主。健康管理が専門で実際のケガや病気を扱わない産業医に大病院とのコネクションはありません。結局彼は自力でアプローチする羽目になりました。

 

接種スタッフの確保

彼が一番苦労したのがスタッフの確保。職域接種にあたっては、予診をしてくれる医師と、実際に接種にあたる看護師が必要となります。

自治体接種でも「打ち手」の問題がクローズアップされていたくらいです。スタッフの確保は一筋縄ではいきません。

まず従業員の家族の看護師からアプローチしようとしたのですが、現役の看護師を引き抜くと自治体の接種を妨害することになるのでアウト。 

もはや「どなたかお客さまのなかにお医者さまはいらっしゃいますか?」の世界で、資格をもって隠れている人を探すしかありません。

従業員や取引先をツテにほうぼう探し回った結果、最終的にカウンセリングが専門の医師と看護師免許をもっていた保健スタッフを確保したそうです。

ただ、どのスタッフも免許はあれど注射なんて研修時代以降打ったことなし。そんな人たちに終日ワクチン接種をお願いするわけですから、免許とって20年来運転していないペーパードライバーに長距離輸送の運転手をお願いするようなものですね。

「それでも確保できただけよかったです」が彼の談。

もめる接種順位

ようやく職域接種のめどが立ってくると今度は接種の優先順位が問題となります。彼の会社では、大企業だけワクチンを確保にいくのは望ましくないとの判断から、対象に委託先も含めることとし、さらに申請数を全体人数の3割程度としました。

その結果、全員の従業員は接種できません。

誰しも「自分の仕事は会社に欠かせない」と思っているから大変。いつもは他部署の仕事には関心がない人も「こっちの仕事の方が重要だ」「うちはお客様にも関わる」と、喧々諤々の議論が起こりました。

ようやく決まった接種者ですが、今度は「副反応が怖いから1番は嫌だ」「注射打ったことない人に打たれるのは怖い」と直前で離脱者が続出。いったん諦めてもらった人に再調整することに。

最終的に、調整に調整を重ねた接種者リストと、キャンセル対応のための膨大な補欠リストができあがり、彼の地獄は収束しました。

 

職域接種を表明していたのに断念した企業の話をも聞いて、「なんで途中でやめちゃうんだろう」と単純に疑問に思っていましたが、なるほどこれは挫折するほど大変そうです。

職域接種の光と闇

職域接種の規模は最低1,000人から。コストは企業の自己負担ですし、最初から医療機関や施設をもっている大企業か、調達できる有力企業しか実施できません。なんだか不公平感がありますね。

ただ、なかなか進まないお役所主導の自治体接種より、職域接種は明らかにスピード感が違います。

平等、公平なワクチン接種をめざし、さらに「ワクチンを拒否する権利」まで認め、なかなか接種が進んでいないのが我が国の実情。不平等、不公平だけども迅速で接種率も高い職域接種は社会全体としては必要なのかもしれません。

ただ、職域接種は行き過ぎにも注意が必要です。例えば、某ソフトバンクでは、球団ファンにも提供するようですが、タダのワクチンを自社の支援者を対象に提供するのはモラル的に果たしてよいのか・・・。

また、職域接種は目下大量の申請でワクチンが確保できず一時停止となっています。全国民が2回接種できる量のワクチンがすでに確保されているはずなのに足りないとはこれいかに。

水増し請求されて使われないワクチンは廃棄されるだけ。一時期の衛生用品の買い占めのように、需給悪化で転売屋が横行するような歪んだ世界とならないかが心配です。

私の職場にも基礎疾患を抱え自治体の接種待ちの人がいますが、感染によるリスクがある人が打てていない事態は、何とかしてほしいなと思います。