最近「王子様」という本名の変更を家庭裁判所に届け出て、無事に改名ができた山梨県の高校生が話題となっていました。
本人のこれまでの苦労を思うと、心から「よかったね」と思えるホッとする話でした。
この話を知って、私は自分の父のことを思い出しました。
ハァァーイ!!!!!
— あかいけ (@akaike_hardtype) 2019年3月7日
名前変更の許可が下りましたァー!!!!!!!! pic.twitter.com/jusyxdSHtQ
うちの表札に知らない人の名前が!一体誰の名前?
私が小学校高学年くらいだったでしょうか。漢字がある程度読めるようになってきた頃、私は自分の家の表札に書いてある名前と父の名前が全く違うことに気が付きました。
「うちの表札に書いてある名前は一体誰?お父さんの名前って茂男だよね?」
「表札は父さんのもうひとつの名前だよ。違う名前を付けてるんだ。」
自営業であった父は、自分の名刺を見せてくれました。確かに名刺には私が認識した名前と異なる、表札と一緒の名前が書かれています。
「ほら、芸能人も本名が別にあるけど芸名を使っているだろ。」
「あ、そっか…お仕事の名前と本当の名前は違うんだね。」単純な私は、その場で納得。
自分でつけた名前を普通に使う人は、芸能界以外ではいないと知ったのは、ずいぶんと大きくなってからでした。
私の父は、茂男という自分の名前で子供の頃にハゲオ、ハゲオとイジメられていたそうで、名前では嫌な思い出しかなかったとのこと。
そこで、独り立ちして居を構えるにあたっては、新たに自分で選んだ名前を表札にし、仕事でそれをビジネスネームとして使っていたわけです。
もちろん、おばあちゃんの家に行ったときに呼ばれる名前は茂男の方。子供の目線からは、通名が使われている場面はなく「なんでワザワザ違う名前を使うんだろう」と思っていました。そして、通名はわが家では事実上表札だけの話となり、私の記憶の隅に追いやられました。
幾年の時は流れども、トラウマは消えず。
時は流れ、私は自立して遠く離れて暮らすようになりました。ある日。還暦を迎えた父から電話がかかってきました。
「この間、家庭裁判所に行って改名してきたからな。これからはちゃんと新しい名前で呼んでくれな!」
なんと、今になって改名手続きをしたとのこと。
いやいや、改名しようがしまいが父親のことを名前で呼んだりしないんだけど…。改名がよほど嬉しかったのかな。
60歳になってとは今更な感じです。還暦では干支が一周回るということで、新たな名前で心機一転したい趣旨か。……と思ったらそうではありませんでした。
「子供の頃、ハゲ男、ハゲ男といじめられてきて名前には嫌な想い出しかない。これまでずっと改名したくてたまらなかった。」
「今回、親が亡くなってからの法要が一段落したから、親からもらった名の義理は果たしたということで改名した。」
義理がたい私の父は、嫌な名前でも親から授かった名前、自分の親(私にとって祖父母)が亡くなって落ち着くまで、改名を我慢していたとのこと。
私だったら、親に配慮せずに速攻で変えているかも…。
ただ、うちの父の名前は別にキラキラネームでも何でもないので、名付けた親には非はないので勝手に変えると確かに不義理かもしれませんね。
いずれにしても、名前に苦しみ改名を考える人は「それなりの思いを持って名付けてくれた親」の存在が結構ハードルになるんでしょうね。
戸籍法第107条2項には「正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」とあります。名前によって社会生活に支障をきたす場合には、家庭裁判所の許可で改名をすることができます。
正当な事由というのは最終的に家庭裁判所の裁判官の判断です。
私の父の場合、客観的には全くキラキラネームではなくむしろ普通の名前。さらにもはやハゲ男なんて呼ぶ人は誰もいません(一方で頭は本当に淋しくなっています)。
これまで通名を使ってきたことはプラス要素ですが(証明する手段は表札と名刺くらいしかないけれど)、一方で果たしてどこが「社会生活に支障をきたす」正当な理由たるのか、個人的には疑問なところも。
ただ父の苦しみはつまるところ本人しかわかりません。子供の頃のトラウマで今も苦しんでいると申し立てた結果、家庭裁判所の裁判官は理解して受理してくれたようですね。
犯罪者などが簡単に改名して雲隠れできないよう、法令の縛りで改名は難しいという認識でしたが、珍妙な名前など外形面だけではなく本人の個別事情を考慮してくれるようで意外にハードルは低いようです。裁判官の個人的な対応かもしれませんが、いずれにしても私の父にとっては有り難い話でした。
キラキラネームに困っている人は家庭裁判所に相談しよう
というわけで、親のエゴで安易にキラキラネームをつけると、もしかしたら半世紀以上子供が苦しむことになるかも。
キラキラネームで苦しんでいる人は、家庭裁判所に相談しよう。意外とハードルは低い。という話でした。
「キラキラネーム 改名」で検索すると、なにやら情報商材が出てきます。
変わった名前が増える→名前で困る人がでる→それを商売にする人が現れる、というわけで困っている人につけ込んで金をむしりとる商売が流行るのは世の常ですね。
自分の名前について困っている人は、情報商材に金を使っている暇があったら家裁に出向いて相談しましょう。
「わが子への思いをオンリーワンの名前に」をということで、唯一無二な名前を付ける人も最近は多いですが、私はオリジナリティあふれる名前には反対派。
小林製薬の商品名ではあるまいし、ネーミングでツカミを狙う必要はないという考えです。特徴的な名前によって、名前を覚えてもらいやすいなど将来プラスになるかもしれませんが、逆に重い十字架となるかもしれません。
そう思うと、個性は親がつけて本人の意思では容易に変更できない名前ではなく、本人の性格や人となりで表してほしいと思っています。
自分の子には、「オリジナリティがない」「子供の名前にかける思いがたりない」と批判されるかもしれませんが、クラスでカブってしまうくらいのありふれた名前をつけました。
私のこれまでの人生において、周囲で一番古いキラキラネームは、同級生の「星飛雄馬」。お父さんが昭和のヒットアニメ「巨人の星」が好きで、苗字が星だったので飛雄馬と名付けた、以外には理由はないですね。
巨人の星を目指してほしいという親の願いもむなしく(?)彼は文化系のブラスバンド部。
ただ名前のせいで「野球はどうしたんだよ!」「今日は大リーグ養成ギブスはつけてないのか?」とツッコミが……。
吹奏楽のコンクール(大会)では、配付されるプログラムに出場校の生徒の氏名が載るのですが、当時は今のような珍しい名前が少ないということもあり彼の名前はひときわ目立ちました。
「子供に飛雄馬なんて名前をつけるからには、名前をつけた父親は『星一徹』に改名して、ちゃぶ台ひっくり返せよ」と子供ながら言っていたものでした。
私と同様に彼も今はいい歳。今頃彼は幸せな人生をおくれているのか…。ユニークな名前で得したのか苦労したのか、尋ねてみたいところです。