失われた記憶
先日、久しぶりにジャズのライブに行ってきました。
お目当てはギタリストのパットメセニー。ジャズ・フュージョン分野では、かなり古くから活動していて、ときおり来日してくれるレジェンド級ミュージシャンです。
Last Train Home
小さなステージということもあって、チケットは高かったですが、アーティストからかなり近くの席に陣取ることができました。
さて、コンサート開演から5分。
「え~っと、この人誰だっけ?」
私はなんと、目の前で演奏しているミュージシャンの名前をド忘れしてしまいました。
もともと忘れっぽい私ですが、大枚はたいてコンサートに来て、目的の人の名前が分からなくなるとは…。やばいです。
えっと…。モジャモジャ頭のギタリスト……。
リー・リトナーでもなければマイク・スターンでもないし、ジョン・マクラフリンでもない…。いっこうに思い浮かびません。
「うまく思い出せないときに、人に聞くなど他力で解決すると記憶力が鈍る」といいます。ちゃんと思い出せないと、そのまま記憶力が低下していく気がします。
しかし、ここはライブ会場。コンサート中に頭を抱えて記憶を呼び覚ましていては、演奏を楽しめません。
そうだ!チケットだ!
すかさずチケットを確認し、「パット・メセニー」の文字をみて、記憶喪失トラブルを脱しました。
ところがそれから30分後。次なる壁が現れます。
オリジナル曲が中心のパットメセニーさんですが、演奏半ばの箸休めということか、珍しくジャズのスタンダードナンバーを演奏しだしました。
「おぉ、こんな有名曲をやってくれるんだ。」
「はて?この曲なんてタイトルだっけ?」
当然知っているはずの曲名がでてきません。
「あの曲!あれ!あれなんだけど…。」
出そうで出てこない!この状態になると気持ち悪くてたまらなくなります。
曲名はさすがにチケットには書いていません。目の前のライブはそっちのけで、記憶の呼び覚ましです。
「なんだっけ?う〜ん、う〜ん… MY…」
なんとか「MY」という単語が記憶からフッと湧いてきました。おそらく思い出したい曲はMyから始まっています。
得られた手がかりからなんとか記憶を引き出すため、ペンを手に取り、テーブルのアンケート用紙に記憶にある限りのMYではじまる曲を書きだしました。
My で始まるスタンダードナンバーといえば・・・
- My Favorite Things.
- My Old flame
- My foolish Heart
- My funny valentine
- My One And Only Love
- My Little Suede Shoes
- My Ideal
しかし、これだけリストアップしても、さっきの曲は見当たりません。
ちなみに絶賛ライブ中。周りのみんなはもちろん聴き入っています。演奏そっちのけで手を動かしているなんてファンにあるまじき行為。だけど気になって仕方がありません。
「リストアップしても思い浮かばないということは、MYというのがそもそも間違っているかも。うーむ。」
パットメセニー は癒し系の演奏なのですが、その演奏を苦悶の表情を浮かべて聴いていた私は、さぞかし周囲に異様に映っていたことでしょう。
結局、素晴らしい演奏であったものの、私自身はとうとう曲が思い出せず、モヤモヤしたままコンサート会場を出ました。
帰宅して早速パットメセニーが演奏した過去のスタンダードナンバーを検索です。しかし見つからない。どうやら収録はされていない曲のようです。
鼻歌で曲名が判別できるアプリを入れようか考え、メロディを反芻しているとき、頭に天啓がおりてきました。
「バラを抱えたキザな恰好のトランぺッターのミュート演奏」があったはず!
最近は埃をかぶっているCDストックをあさり、ついに発見!当該イメージに合致するアルバムを見つけました。
頭に浮かんだCDは、トランペッターのフレディー・ハバートの「バラの刺青」です。
- アーティスト: フレディ・ハバード,リッキー・フォード,ケニー・バロン,セシル・マクビー,ジョー・チェンバース
- 出版社/メーカー: BMGメディアジャパン
- 発売日: 1997/10/22
- メディア: CD
- クリック: 6回
- この商品を含むブログを見る
私が思い出せなかった曲は、そこで演奏されているMy romanceというスタンダードナンバーでした。
Freddie Hubbard Quintet - My Romance
ビルエバンスの演奏の方がはるかに有名ですが、こちらは浮かびませんでした。
Bill Evans Trio at the Village Vanguard - My Romance
ずっと引っかかっていたツカエがとれ、ようやくスッキリ。その日は安心して寝ることができました。
覚えているはずのことが思い出せないのは、本当に気持ち悪い!
分からなければアレクサに尋ねればいい。だけど記憶力は?
ジャズのスタンダードナンバーであれば、フレーズを聴けば曲名がすぐ出てくる私でしたが、最近めっきり曲目やアーティストが出てこなくなってしまいました。
歳をとったということもありますが、私の記憶力をダメにした原因は分かっています。こいつです。
Amazon Echo。昨年わが家にやってきたAmazonのスマートスピーカーです。
音声認識と判断が素晴らしく、例えば「アレクサ、USAをかけて」と言えば、DA PUMPのUSAと判断してかけてくれます。
私の使い方は、プレイリストなど適当に音楽を流し、いいなと思った曲があれば「アレクサ、曲名は?」。こうすると即座に曲名とアーティスト、アルバムを答えてくれます。本当に優秀なヤツです。
かけてくれる曲目には限界があるのですが、圧倒的な便利さに、CDを持ち出す機会は格段に減ってしまいました。
一方で、もともとポンコツな私の記憶力。これまでときどき呼び起こしてリライトして維持できていた模様。アレクサの登場で自ら思い出す機会がなくなり、記憶の引き出しがホコリをかぶり能力が低下してしまったとようです。
定期的な家電操作はスマートスピーカーにやらせよう。そしてお払い箱になるのは?
さらに、わが家のリビングに置いているのはEcho Plus。Plusの方はスマートホームハブ機能がついていて、対応機器とセットで使えばEchoで家電操作ができます。
うちではスマート電球とスマートリモコンをリンクさせて使っています。これもまたクセ者です。
Echo Plus (エコープラス) 第2世代 (Newモデル) - スマートスピーカー with Alexa、チャコール
- 出版社/メーカー: Amazon
- 発売日: 2018/10/30
- メディア: エレクトロニクス
- この商品を含むブログを見る
この寒い時期は、朝起きたら、玄関の門灯を消し、エアコンをつけ、テレビをつける。この一連が私の朝の日課となっていました。
「開けたら閉める」「出したらしまう」という当たり前なことがなかなかできない私は、門灯の消し忘れ、よくやるんですよね。
www.boardgamepark.com
「また門灯を消すのを忘れてる」と根気よく指摘してくれる妻の存在もありますが、何年もの習慣づけによって、門灯の消し忘れは10回に1回くらいに減りました。
しかし、Amazon Echoはそんな私の長年の努力なんか認めてくれません。
ちょちょっと設定するだけで、「朝になったら夕方つけた門灯を消して、エアコンとテレビをつける」ことを毎日欠かさずやってくれるようになりました。
忘れっぽい私が、何年も繰り替し習慣づけてきた仕事を、アレクサにアッサリ奪われてしまったわけです。
が、「あ、門灯。門灯消さないと」と、毎日気をつけていた私は長年何をやっていたんだろう…。
曲名の次に分からなくなるのはきっと毎日の日付けです。便利さでどんどんダメになるんだろうなと思いつつ、今日も使っています。
「アレクサ、今日は何の日?」
便利になるってことは…。
近年のAIの発展で「人間の仕事はいずれAIに置き換わる」「人間の仕事がそう簡単に置き換わるわけない」の議論があります。
私は便利になることは、仕事や能力が奪われていくことと同じだと思うんですよね。
ヤツらは狡猾。どうでもいい分野から少しずつ侵食してきます。
新技術によってマンパワーが置き換えられて楽になりますが、機械ではやれない新たなことをやらないと存在意義がなくなってしまいます。
私のいる会社では、少し前にRPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)の試験導入をしていました。
毎日遅くまでオンライン端末からエクセルへの転記をしていたAさんの日々の作業は、ソフトウェアロボットによって大幅に自動化されました。
「RPAで毎日の不毛な転記作業がなくなって楽になったぞ。ブラックがオセロのようにホワイトに。サボりホーダイだ。」
半年後、Aさんは営業部署に転属となり、今度は毎日の飛込み営業に追われることに。便利になったということで、今までの不便な仕事とともにそれをやる人間もいらなくなったわけです。
「AIやロボットに奪われない仕事を」と、自分の仕事に選り好みはなかなかできません。ただ、少しでも対抗できるよう、事象の判断、交渉や駆け引き、コミュニケーション能力にプラスになることに日々取り組む必要があるかもしれませんね。
というわけで、次回のボードゲームは、2人での駆け引きがミソのカードゲーム「ザ・ゲーム フェイストゥフェイス」の予定です。